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明治期のベストセラー児童文学 「こがね丸」

先週のらくろ館に行ってからというもの、明治、大正など近代の子供文化を調べるのに夢中になっております。今回のテーマも検索中に偶然知ったものです。きっかけはこちらの記事

巌谷小波という作家が明治二十年代に少年向けに書いた「こがね丸」というもので、当時大ヒットを記録したんだそうです。それまで日本には児童向けに書かれたオリジナルのフィクションというのは存在せず、この作品が日本における最初の児童文学であるといわれています。
内容は両親を金眸という虎に殺された犬のこがね丸が、仇を討つため旅に出るというもの。
この作品の背景や作者については以下のページで非常に詳しく書かれています。

『こがね丸』とその周辺

これを見て俄然内容に興味を持ったわけですが、こういうときに心底ありがたいのが青空文庫。こがね丸もバッチリ入ってました。

巌谷小波 こがね丸

画面をそのまま読んで行くのは辛いところですが、意を決してプリントアウトしてじっくり読む事にしました。そのまま印刷すると結構な枚数になりますが、macのテキストエディットにコピペして印刷してみたらちーさい字ですが6枚に収めることができました。
最初は明治の作品なので読みにくいんじゃないかとか、ほんとに面白いのか疑問だったのですが、ボリュームもちょうどいいせいか実際はあっという間に読んでしまいました。さすがはベストセラーです。
文章は旧仮名遣いの古めかしい文語調で、青空文庫版ではふりがながカッコ付きで書かれたりしてるので最初はちょっと戸惑いますが、慣れるとふりがなのお陰で苦もなく読み進められ、さらにその古めかしい七五調の文章が美しく、もういわゆるロマンを掻き立てるような素晴らしい効果を発揮していました。
いくらそう書いても伝わらないと思うので、冒頭で非常にドラマを感じた部分を引用してみます。

荘官の家に飼われている月丸と花瀬という夫婦の犬のうち、月丸が虎の金眸によって花瀬の目の前で殺される。その後の花瀬の様子と主人公が生まれるまでの描写。
済まぬは花瀬が胸の中(うち)、その日よりして物狂はしく。旦暮(あけくれ)小屋にのみ入りて、与ふる食物(かて)も果敢々々敷(はかばかしく)は喰(くら)はず。怪しき声して啼(なき)狂ひ、門(かど)を守ることだにせざれば、物の用にも立(たた)ぬなれど、主人は事の由来(おこり)を知れば、不憫さいとど増さりつつ、心を籠めて介抱なせど。花瀬は次第に窶(やつ)るるのみにて、今は肉落ち骨秀(ひい)で、鼻頭(はなかしら)全く乾(かわ)きて、この世の犬とも思はれず、頼み少なき身となりけり。かかる折から月満ちけん、俄(にわ)かに産の気萌(きざ)しつつ、苦痛の中に産み落せしは、いとも麗はしき茶色毛の、雄犬ただ一匹なるが。背のあたりに金色の毛混りて、妙(たえ)なる光を放つにぞ、名をばそのまま黄金丸(こがねまる)と呼びぬ。

もうね。完全にこれでやられました。なんともいえない日本語の美しさ。

主人公はその後成長して武者修行の旅に出て、やがて白犬の鷲郎という仲間を得るんですが、その仲間になるまでの展開がちょっと往年のジャンプ漫画を連想させる感じで、ルーツはここだったのかと勝手に思い込んだりしてしまいます。
こがね丸は鷲郎と一緒に暮らす事で食うのに困らなくなるんですが、腐女子な人はこういうの好きそうだなぁと思ったり。
その後もキャラクターがいろいろ出て来て、なかには有名な昔話と意外な繋がりを持たせていて非常に面白い。
また、あるとき雌鼠の阿駒ってのを助けるんですが、この阿駒の恩返しの仕方といったら(;_;)(;_;)(;_;)

これを知るきっかけになったブログでも指摘されてましたが、東映アニメの「わんわん忠臣蔵」のストーリーがこがね丸とそっくりだそうです。自分は見た事が無いのですがWikipediaの項目を見るとたしかに前半のあらすじがそのままですね。

それでも明治の大ヒット作がどうして現在は埋もれた状態にあるのかが非常に不思議でなりません。もしこの記事を見て興味を持たれましたら是非一読をお勧めします。
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by yoshihide-ohkubo | 2010-05-16 23:10 | その他

田河水泡 のらくろ館

先日まったく別の事をググっていたところ、のらくろについて書かれたブログ記事が偶然ひっかかりました。
考えてみればこのブログみたいな嗜好をもっていながら自分はのらくろについて全く関心を持ってきませんでした。子供の頃児童向け図書館で見た事があるようなないようなというぐらいで内容はさっぱり覚えていません。
のらくろ という作品やキャラクターについての話題も世間で見かけなくなってずいぶん経ってる気がします。平成生まれはもう知らないんじゃないでしょうか。

wikipediaで調べたところ、資料館が江東区にあるそうなので早速いってみました。珍しいですね。こんなところに。
ちなみにそのホームページもありますが、stopボタン抜きで強制的にBGMを流してくれるステキな仕様となってますのでご注意を。今後の改善に期待しましょう。
江東区森下文化センター 田河水泡・のらくろ館

資料館といっても森下文化センター1Fの一角に常設してあり、無料です。こじんまりしてはいますが丹念に見ていけば小一時間ほど過ごせるようになっています。人は…まぁ…自分の居る間に2人ほど通り過ぎて行きましたか。自分は2周ぐらいしましたが。

入ってすぐの所にのらくろの生い立ちとして全作品のダイジェストを展示してありますが、それだけ見てものらくろの面白さ、かわいらしさが伝わってきます。
記憶にある最初の風景というのがひとりぼっちで板に乗って川を流されて行くところなのですが、この絵がなんとも切なくてかわいくて。
それぞれのギャグも現在の目からしてもほのぼのとして微笑ましく、充分楽しめるものでした。
軍隊ものとはいえ、主人公がドジでサボり癖があったりするので軍国主義的な臭いは自分は感じませんでした
裏話としては、軍隊の仲間が正月で家に帰るのに、のらくろだけ帰る家が無いと嘆く話を出版したところ、「うちにおいでよ」というファンレターが殺到したという。イイ話すぎます。

ここで突然ですが、自分の頭の中では1900年代の物差しとしてウォルト・ディズニーの大体の生涯や作品で考えています。ファンタジアが1940年だとか、ミッキーマウスが1928年だとか(だいたいなので今調べたら間違って覚えてた)。
そこから比べると田河水泡はウォルト・ディズニーとほぼ同じ世代、水泡が2歳年上の1899年生まれでした。没年は1989年。明治、大正、昭和ときて平成を約1年体験されたという、意外な程最近まで健在だったんですね。
水泡の生い立ち紹介と一緒に当時の深川の古地図が掲げられてました。今よりずっと内陸部まで水辺だったようですが、木材運搬用の水路なのか、幾何学的に池や水路があって、今の埋め立て地をそのまま内陸にずらしたような地形になってたのが興味深かったです。

資料館なのだからのらくろがちゃんと本として読める形で置いてあるのかと思ってましたが甘かった。もう長い事(80年代以来?)絶版状態が続いているそうで、年季の入った本がガラスの向こうに数冊展示されてるのみでした。

正直これは問題でしょう。

この資料館自体はまるで最近オープンしたように手入れされてるものの、はたして普段どれほど人が訪れるのか。自分自身、偶然思い出さなければのらくろなんて全く関心の外でしたし、その一方でキャラクターの魅力は今でも通用する、というか今ちょうど受け入れる下地が世間に整ってるところなんじゃないかと。
ここは是非復刻再販を希望したいところです。それもマニア向けのハードカバーじゃなくて普及版がほしいです。というか、もうiPhone / iPadの時代なんだからいきなり電子書籍版として出しちゃってもいいくらいじゃないでしょうか。(いっそのことパブリック・ドメインに…とまでは言い過ぎか)

とにかく、シーンとした資料館の中で1人、ほんとにこれはマズいよと何度も思わずには居られませんでした。
この機会にちょっとでものらくろを思い出してやってあげるといいかも。初めて知った人は、読める機会がなくて残念ですが、もし資料館の近くまで来る機会があったら立ち寄ってみると面白いかもしれません。

p.s. 神保町を探したら文庫サイズのちょうどいい本が1冊だけ見つかったのでゲットして来ました。いきなりハードカバーの全巻を買う勇気はさすがに無いので…
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by yoshihide-ohkubo | 2010-05-09 23:08 | マンガ