街頭紙芝居絵のカッコ良さは異常

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前回のエントリの延長で古い時代の子供向けの本などを調べるのが最近のテーマになってきました。
たとえば、現在のマンガなどの基盤を作ってきた人たちが子供時代どんな作品を楽しんできたのか、さらにその作者が楽しんできた作品はなんなのかとルーツを辿ってきました。
そんなときに上野の国際子ども図書館に行ってみた所、街頭紙芝居について書かれた書籍群に目が止まりました。
紙芝居について書かれた本は今までほとんど見た事が無かったのですが、
各作品の紹介記事を見ると、この世界が想像以上に面白い作品にあふれている事に驚かされました。
この手の本は種類が少なく、ちょっと古本屋を覗いたくらいでは見かける事は難しいようです。
ここで見たのは主に
大空社 紙芝居大系 全14巻
アサヒグラフ別冊 戦中戦後紙芝居集成
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でした。

そのどれもが多少の古さは感じたとしても
現代の目から見てもエネルギーに満ちあふれていて
ちょっとしたダイジェストを読んだだけでも思わず引き込まれてしまう作品が非常に多く、即座にハマってしまいました。

ただし、本の中で紹介されるのはあくまでダイジェストであり、一部の作品はカラーで紹介されるもののほとんどはモノクロかせいぜい2色刷りで、
手のひらより小さい画面で載っているのがほとんどです。
ところがいろいろ調べて行くうちにその全巻を自由に見る事ができる所を発見しました。

最近自分が入手した戦中戦後紙芝居集成のなかには各作品の収蔵先が書いてあるわけですが、いくつかの作品に”江東区立深川図書館収蔵”とあり
調べてみた所以下のような広報のページが見つかりました。
深川図書館所蔵の街頭紙芝居(複製版)の館内閲覧を開始します
ここでは以下の作品が公開されています。いずれも「なかよし会」という紙芝居の絵元が製作したものです。関係者が寄贈したのでしょうか。

  「疾風鞍馬天狗」(全15巻)  *第2巻 欠巻
  「ジャングル王者」(全50巻) *第28巻欠巻
  「新版γ彗星団」(全40巻)
  「半獣人」(全20巻)
  「不死身の魔王」(全41巻)
  「妖魂まだら狐」(全20巻)
  「夜の王者」(全2巻)
  「夜なき石」(全20巻)

そこで実際に行ってみた所、階段を2階に上がって左手に図書館の建築模型があり、その下の棚に1巻ごとに袋に入った紙芝居の束がひっそりと(しかしどっさりと)置かれていました。
ここに気付く人、手に取って読もうとする人はほとんどおらず、実際何も情報が無ければ、くすんで薄汚れたような表紙(もちろんコピーで原版そのままの形)ばかりで正直面白そうにはとても思えない見た目ではありました。

紙芝居の実演でも数十巻に及ぶ内容を一気に楽しめる機会はまずないと思われますが
ここでは間近にA3フルカラーの大迫力で全巻を見ることができます

下の「もっと読む」以降ではそのうち突出して面白い2作品を紹介します。
貴重な機会なので、興味があれば是非、深川図書館に行って読んでみて下さい。




妖魂まだら狐 全20巻

江戸時代、淡路島では家老大月玄番(げんば)が淡路城を乗っ取ろうと、狐使いの老婆の力で
大勢の妖怪狐を送り込み淡路城を大混乱に陥れていた。
その混乱に乗じて玄番は城主佐渡守(さどのかみ)を斬り殺し、その局(つぼね)も手下によって殺される。
局が今際の際に不動明王に願いをかけると、いたく同情した不動明王が
なぜか江戸の旗本退屈男、早乙女主水介(さおとめもんどのすけ)の枕元に現れて
佐渡守の息子竹千代を助けるように言い渡し、
主水介に不思議な力を持つ仮面、マント、剣を与える。
主水介はその衣装を身に着けてスーパーマンよろしく淡路城へひとっ飛び…(ええええ)
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主水介は手下の狐どもをバッサバッサと斬り倒し一匹残らず退治してしまう
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狐使いの老婆は怒り狂い、ついに本性をあらわす
見よこの形相!
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「おのれ主水介!!」
コピーでもその念が伝わってくるような大迫力!
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こちらは狐の総大将まだら狐。抵抗むなしく倒された老婆の仇打ちとして
主水介の前に立ちはだかる
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(引用がキツネばっかりなのはご愛嬌)

画像は無いけど、お局さま—竹千代の母の亡霊の大活躍も凄まじい。ほとんど悪役のようなウラミの形相で、節目節目で主水介らの危機を救う。

古い作品のせいか若干細かい突っ込みどころはあるにせよ
構図も画力も素晴らしく、当時映画でも不可能なビジュアル世界を表現しており、
CG全盛の現代でも十二分に通用する迫力に満ちています。

その一方まぎれもなく時代劇であり、恨みの表現など現在では完全に途絶えてしまった伝統を思い知らされ、
日本独特の世界観で壮大なスケールの伝奇ものを作るとこうなるというのをまざまざと見せつけてくれます。


不死身の魔王 全41巻

一方こちらは西洋風ファンタジー。冒頭に掲げた絵もこの作品のもの。

平和な村々を焼き討ちして回る騎馬の軍勢があった。その軍勢を率いる不死身の魔王と
それに立ち向かう少年剣士ケブラの戦いの物語。
焼き討ちした村の生き残りを捕虜として連れ歩いていた軍勢の前に突如現れたのが
白馬に乗った少年剣士ケブラ。
村人の解放を迫るケブラに、完全に舐め切った態度で魔王の手下が立ちはだかるが
ケブラはそれを一刀両断
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そこに魔王が直々に勝負を申し出る
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ケブラの剣術は凄まじく、あっけなく魔王の首を刎ねてしまうが
魔王は死なず、首と体の両方でケブラに襲いかかる。
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突然の砂嵐でこの勝負はお預けになるものの
その後ケブラ自身の故郷も魔王の手で壊滅させられたと知り
ケブラは魔王を倒す旅に出る。

この旅の過程で様々なクリーチャーが登場してケブラ達を妨害したり助けたりするけども
中でも一番巨大なものがこの怪物
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物語の後半にあたかもちゃぶ台をひっくり返すように登場して敵も味方も吹っ飛ばしてしまう。
このビジュアルは今見てもすごい。

まさに剣と魔法の物語で、ハイファンタジーをそのまま連続活劇に落とし込んだような作品です。
ただどう考えても昭和30年の時点でこういうものがポッと出てしまうのは普通あり得ないでしょうと。
作品がつくられた脈絡がまったくわからないと思っていましたが、
「不死身の魔王」でググってみた所、なんと昭和20年代に同名のソ連映画(!)が公開されており
どうやらそれを元にしたか、あるいはその原作の民話を元にした作品だという事が分かりました。
さらに調べてロシア語のタイトルをつきとめ、YouTubeで検索してみると案の定その映画がアップされていました。
で、どんなにすごい作品かと見てみたんですが…

まっっっっったく別物です! 比べ物にならない!
所々の設定は共通していて、同じ展開の部分もあるにはあるんですが
映画の方は終止この時代独特のゆったりテンポで進んで行くのに対し
紙芝居の方は一瞬たりとも目が離せない巧みな展開になっており、
ラストについても映画では完全なハッピーエンドを迎えますが、紙芝居ではやや哀感の残る形でのハッピーエンドとなっています。
あの映画をどうやったらここまでの内容に膨らますことができるのか、さらに謎が増えた次第です。
参考に映画のリンクを貼っておきますので興味ある方はどうぞ
YouTube - КАЩЕЙ БЕССМЕРТНЫЙ -- KASCHEJ BEZSMERTNYJ (1944) 1/6
YouTube - КАЩЕЙ БЕССМЕРТНЫЙ -- KASCHEJ BEZSMERTNYJ (1944) 2/6
YouTube - КАЩЕЙ БЕССМЕРТНЫЙ -- KASCHEJ BEZSMERTNYJ (1944) 3/6
YouTube - КАЩЕЙ БЕССМЕРТНЫЙ -- KASCHEJ BEZSMERTNYJ (1944) 4/6
YouTube - КАЩЕЙ БЕССМЕРТНЫЙ -- KASCHEJ BEZSMERTNYJ (1944) 5/6
YouTube - КАЩЕЙ БЕССМЕРТНЫЙ -- KASCHEJ BEZSMERTNYJ (1944) 6/6

ところで、この紙芝居を見て自分が一ばん痺れたのが、なんといっても1巻目の絵の裏に書かれた次の文字。
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「現代で一ばんすぐれた作品です」!!!
この気概が素晴らしい!
しかし冗談抜きで当時、世界を見渡してもここまでエンターテイメントに徹した作品は稀であることを考えると
ある意味当時最先端の作品だったといって過言ではないと思われます。
(ややベタ褒め過ぎか)

裏書きついでに説明すると、街頭紙芝居の絵というものはなんと原画をそのまま持って行って実演していたそうです。
だから紙芝居の絵は本当に世界にその1点 だけ しかないのです。
だからこの裏書きにもあるように「画を大切にして下さい」という注意書きがある。
それでもやはり何度も使われるわけですから、もうボロボロです。
コピーを見ていても全ての絵で四隅がボロボロで、破れたのか裏にテープを貼ってあるものもあったり、
中でも悲惨なのが下の絵で、中央が完全に剥げ落ちてしまっています。
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今では考えられないような原画の扱い方だった事が分かります。

以上紹介してきたものも含めて深川図書館に収蔵されている紙芝居作品は
昭和30年代初期のものというだけで詳しい制作年は分かっていません。
著者も、手元の資料にかろうじて

妖魂まだら狐
作 ちくら
線 たけち
色 さかえ

不死身の魔王
作 おかもと

とありました。現物を見てもちょっと文字の判別がつかなかったです。
彼ら制作者達の詳細は不明。
相当な画力とストーリーテリングの持ち主と思われますが
紙芝居衰退後は一体どうなったのか全く不明。

加太こうじ著「紙芝居昭和史」には
一般的な製作ペースが書かれていて、1巻10枚程の紙芝居を絵とストーリーを含めて1日で仕上げて翌日実演者に配る
というものすごい自転車操業的な状況で作られていたそうです。
週刊どころか毎日が締切りで、必ず面白くなければいけない。あとがきには当時の水木しげるが毎日大変な思いをした事が書かれています。
ただ、ここで挙げた2作は描き込みも多く、さすがにもう少し時間がかかりそうな気がしますが、ホントに当時の絵元「なかよし会」の事情を知ってる方がいたら詳しくお話を聞きたいぐらいです。

街頭紙芝居は昭和初期に誕生して次第に広まって行きましたが、「紙芝居昭和史」によると
戦前のものはまず空襲によって焼失したそうで、黄金バットの作者の1人、松永武雄氏がその焼失現場を目撃したことが書かれています。
さらに各地に残った作品も軍国主義に協力した作品としてGHQに回収されて焼かれたため、現在残っている作品のほとんどは戦後の紙芝居のようです。
終戦直後から加太こうじらが紙芝居を再び盛り上げようと動き出して、昭和20年から30年代にかけて戦後の黄金期を迎えたそうですが、TVの普及とともに急速に衰退して昭和40年代にはほとんど作られなくなったそうです。

自分はあくまで絵と文字で紙芝居を読んだに過ぎず、実演をみて面白かったというわけではありません。
YouTubeでもいくつか実演映像が上がっていましたが、当時には当時なりの、現在なら現在なりの見せ方もあるのではないかと感じました。
元の絵とストーリーがここまで優れていればきっとノスタルジー抜きに現代に通じる実演のあり方が有ると思います。
アサヒグラフ別冊 戦中戦後紙芝居集成に載っている、ある解説の中に次のようなくだりがありました

「いきいきとした場をつくり出していた紙芝居も、あるいはそこではスピリットを抜かれた絵の束だったのかもしれない。けれどもそれは枯れたぬけがらではなく、まだ火力を保ちつつも灰をかぶって沈んでいる火種のようでもあった。」


その火種が新しい形で再度その火力を世界に見せつける日を願ってやみません。
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by yoshihide-ohkubo | 2010-11-28 18:27 | アート


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